月夜見

    “芋栗南瓜、美味しい季節vv”

           *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより

 
今年はとんでもない酷暑に見舞われた夏だったせいだろか、
秋の作物にも微妙に影響が出たそうで。
たとえば米処では、
雨も多かったので干害にこそ見舞われなかったが、
葉が陽に焼かれたり、上がり過ぎた水温で根をやられたりし。
収穫がなかったワケじゃあないながら、
されど米の質が軒並み悪かったりもしたそうで。
気温差があってこそ美味しくなる、
葡萄や梨などという果実の類も育ちが悪く。
柿や木の実に至っては、実らなかった樹も多数。

 「そんなせいで餌が足りないか、
  熊が里まで降りている土地もあるんだと。」

 「へぇえ〜、それはおっかないことだな。」

そういえば、蕎麦もそろそろ新物が収穫される時期じゃね?と、
お鼻の長い岡っ引きの手下、ウソップが訊いたれば、

 「そうなんだがな。」

調理場の手前、仕切りとそれから、
出来上がった膳を手渡すのに使う飯卓も兼ねた台の前に、
煙管片手に陣取っていた板前のサンジが、
微妙に難しいお顔となり、

 「そっちもなかなか、例年の収穫があるかは怪しいんだと。」

ここ“かざぐるま”は、町の一膳飯屋であり、
特に気張った料亭じゃあないが。
それでも腕に自信の板前としちゃあ、
季節の目玉となろう食材は押さえたいもの。
殊に、新そばのあの風味は、
身近な食べ物であるがゆえにの、尚のこと。
他の季節では味わえぬ瑞々しさを、
逃したくはないと思うご贔屓も多く。
他では味わえたのに、おや こちらじゃあ無理だったかねなんて、
そんな運びになるのもむかっ腹が立つと来て。

 「まあ、毎年の荷を約束している先様じゃあ、
  いつも手間暇かけての丁寧に作っていなさるのでな。」

特に大変な事態になったという知らせもないのだし、
案じても詮無いとは思うのだがと。
時折波立つ気持ち、
何とか押さえ込んで過ごしている今日このごろなんだとか。
そんな飯屋の縄のれんをくぐって、ごめんと入って来た人があり、

 「………どういうおふざけだ、親分よ。」
 「あ? やっぱ判ったか?」

お顔はそこへと伏せていた仮面があって、
じかに晒されてはなかったものの。
まとまり悪く跳ね回ってる黒髪や、
ひょろりと細い腕脚に、
赤い格子の着物と下履きの藍の股引
(パッチ)
背中に提げた麦ワラ帽子…と来れば、
そんな風体のお人なぞ、他にそうはいないというもので。
ばれたか〜と面を外した陰からいつもの童顔を覗かせて、
にゃは〜と笑ったルフィ親分だったのだけれど。

 「何だ、珍しいもんで作った面だの。」
 「お、さすがはサンジだな。判ったか?」

紐も通さずの手で持ったままというかざしようだったのは、
結構な厚みがあったのと、
まだ瑞々しい野菜の分厚い皮を、
切ったそのまま細工した面だったからであり、

 「これって、カボチャだろ?」
 「そうだっ。」
 「え? これがか?」

サンジの指摘へ得意満面な親分だったのへ、
だがだが、居合わせたウソップはキョトンとして見せる。
というのが、

 「こんな真っ黄色のカボチャなんてあんのか?」

正確には橙色とでも言うのだろうか、
緑の部分がちいとも見えぬ、
絵の具でむらなく塗り潰したような鮮やかさ。
このお話の舞台は決して江戸ではないものの、
それでもあえて持ち出せば。
南瓜と呼ばれる野菜は、
結構古くから日之本へも渡来してはいたけれど。
いわゆる緑の、ずんぐりした小ぶりの種が主であって、
こんな色合いのもの、一般には流通さえしちゃあいなかった。

 「これはな、チョッパーせんせえが持ってたんだ。」

これは練習台にしただけだからやるって言われたと、
何やら にまにまと嬉しそうに笑っている親分で。

 「何でもな、
  海を越えたずっとずっと西のほうの国じゃあ、
  今月の末にこのカボチャを使うお祭りがあるんだと。」

 「カボチャのお祭り?」

そういえば、あの小さな医学生のトナカイさんは、
遠い国から来た身だというお話で。
そうか、そっちの地元の話かと、
サンジやウソップという聞き手の二人が納得しかかったものの、

 「おお。西の国の宗教ではな、今月の末が“お盆”なんだと。」
 「はぁあ? 何で今時分なんですよ?」

もう秋だぞ秋と、ウソップが呆れたが、

 「まあ…海の向こうの、しかも習慣も違う国じゃあな。」

サンジの方は、特に驚きはしなかったようで。
だってよ、宗教の関係で、
陽が沈むまで何にも食えない時期があるって国もあるしと、
彼の知っていた“例え話”を付け足せば、

 「うあ、それって俺には無理だ。」

ルフィが眉を寄せたのへ、
さもありなんだとの理解を招いたのは ともかくとして。
(大笑)

 「向こうの盆でも地獄の蓋が開くんだそうで、
  それでと飛び出して来る亡者を追い返すんだと。」
 「え? 迎えてやらんのか?」
 「俺も驚いたがな、
  こっちでいう涅槃、
  ばらばらってトコにいる良い奴は戻って来ないんだと。」
 「ばらばら…?」

なんか、赤い鼻だった誰かさんを思い出しそうですが。
(笑)

 『オレは“ヴァルハラ”って言ったんだけどもな。』

チョッパーせんせいが訂正しもって苦笑をしたのは後日の話。
ところどころが怪しい伝え聞きはまだ続き、

 「地獄にあたる“へいる”ってとこにいたのばっかが戻って来るんで、
  そんな連中が町や家へ入って来ねぇよにって、
  これでお化けの顔を彫り出して、家の軒先に置くんだと。」

 「そうか、悪いことした亡者に来られちゃあ大変だもんな。」

ウソップは うんうんともっともらしく頷いていたものの、

 「けど、こんな剽軽な顔で逃げ出すもんなのか?」

こちらはサンジが、
西洋かぼちゃとやらに彫られた顔をまじまじと見て呟いた。
練習台だということは、さして変わらぬ図案で彫るらしいに違いなく。
だが、魔除けにしちゃあ、目もたわんでいるし口元にも笑み。
カボチャに彫るなら丸々とした顔だということでもあろうから、

 「地獄から舞い戻る亡者っつったら、
  海千山千の強わものばかりだろうによ。」

それが、こんな剽軽な顔を怖がるとも思えんのだがと、
怪訝そうに小首を傾げたのももっともな話。

 「チョッパせんせえが彫ったから可愛いのかねぇ?」

卓についた親分へ、すぐにも出せる用意はあったか、
おやつ代わりのふかしイモ、
ひとかかえはあろう大ザルへ山盛りにしたそれごと、
どんと出しつつの言いようだったのへ、

 「そか? チョッパーはそういうもんだって言ってたぞ?」

さっそくにも大きいのを2つほど、はぐと頬張りつつ続けたのが、

 「何でもな、悪魔さえ騙くらかした大嘘つきの顔なんだと。」
 「お………?」

その男はサ、じゃっくっていうんだがな。
人を騙して へいるに案内する悪魔を相手に、
魂は奪えないって結末へ巧妙に騙してしまったもんだから、
恐ろしい地獄行きは何とか免れられたんだけどもよ。
嘘つきは悪人だから、
“ばらばら”の門番も嘘つきを入れる訳には行かないってことで、
死んだ後にやって来たそいつを追い返したんだって。

 「涅槃へも地獄へも行けなくなったじゃっくが提げてた灯籠に、
  そいつの顔を彫ったのがこれなんだと。」

 「へぇ〜え。」

じゃあ、この顔が睨みを利かせりゃあ、悪魔は飛びのくって訳か。
そういうこった、と。
自分の手柄のように“だははは”と笑った親分だったが、

 “成程なぁ。”

板前さんが感心したのは、
そっちの逸話のせいじゃなく。

 “いくら童顔でも関係なく、
  うさん臭くて凄腕の坊さんを、
  きっちり封じてる親分がいるくらいだしな。”

どこが怖いかという幼さで、
グランドジバングの安泰を守っておいでの親分と、
とっつかっつの効き目があるんだねぇと。
なんだか妙な感心をしたらしき板前さんだったらしいのが届いたか、

  「…ぶぇっくしゅっ!」

どこかの町角、屋台で熱燗すすりつつ、
いきなり大きなくさめをする雲水さんがいたりして?
(大笑)


  まだちょっとお早いですが、

  HAPPY HALLOWEEN!



   〜Fine〜  10.10.25.


  *ルフィ親分と、
   ジャック・オー・ランタンを一緒にしてどうしますか、ですが。
(笑)
   でも、全然怖くないのに、
   御利益は大ありなところは似ているかもだなと思いまして。
(おい)
   きっと、子供たちはお菓子を振る舞われるというくだりに、
   関心も大きかった親分かと思われます。(大笑)


感想はこちらvv めるふぉvv

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